☆白いリボン☆
第一次世界大戦前夜、北ドイツの小さな田舎町。ある日、帰宅途中のドクターが道に張られていた細い針金にひっかかり落馬して大けがを負う。その次には、村の権力者の男爵の製材所で小作人の女性の事故死が発生。そして、男爵のキャベツ畑が荒らされ、男爵の息子が行方不明になる。次々と不可解な事件が起こるが犯人がわからぬまま、次第に村人たちは疑心暗鬼となって行く…
モノクロの映像で、一見相当昔の映画かと思えるのですが、これは2009年製作で、その年のカンヌ映画祭パルムドール受賞作品です。
色んな事件が起こりますが、結局犯人は誰か、目的は何かをはっきりとさせず、見る人に委ねるパターンの映画です。
男爵は村を仕切っていて誰も彼の言う事に口を挟めない。医師は助産婦に、「そんな事を言うか!」と思うような言葉で罵る。又プロテスタントの牧師は村でも大きな力を持っています。牧師は自分の子供たちを厳格に育て体罰も辞さず、反省させる為に彼らの腕に純真を意味する白いリボンを巻きます。
覇権主義に生きる大人たち。一方で子供たちはそんな大人たちをちゃんと見ているわけです。でも自分たちは抑圧されているので、もちろん次第に不満は溜まります。おそらく彼らが事件に関わっているのは間違いない。
第一次大戦前と言う緊張した雰囲気の中で、もちろん大人たちもフラストレーションを抱えているわけですが、彼らのその不満の捌け口が、女、子供、立場の弱い者。そして、子供達は更に自分たちより弱い者や動物への虐待へと進んでいってしまっているのです。ここの子供たちに笑顔はありません。いつも抑圧され、何かに怯え、憎しみを抱いているような表情に、背筋が凍りつくような思いでした。ですから牧師の末っ子が、一度小鳥を手に嬉しそうな表情をしたのが印象に残ります。
閉鎖的な村で起こる恐ろしい事件。しかし、結局のところ誰も真剣に積極的に動こうとしていないように見える中、唯一動き出そうとしたのが町からこの村に赴任してきた若い教師。誠実そうな彼はこの村の17歳の娘と恋人になりますが、この娘が唯一この村では屈託のない笑顔を見せてくれます。しかし、そんな彼女でさえ、『池』に何か秘密があるらしい。結局この村は何なんだろう、と思ってしまいます。シャラマン監督が描きそうな雰囲気の村。だけど、この村が特別と言うわけではなく、これは当時のドイツ社会全体にこのような体質があったということなのでしょう。この映画の意図は、ファシズムを支持した大人たちがどのような子供時代を過ごしたか、と言う事なのでした。
しかし、これは当時のドイツに限った事ではありません。今の時代でも一歩間違えばこのような事態に陥ってしまうし、実際に今そういう場所もあるのです。
真犯人は分からないけど謎解きの映画ではない、と言う事ははっきりしています。音楽はほとんどなく、モノクロの映像は絵画的で美しい。しかしそれ故に、純真を意味する白いリボンの”白“がやけに強調され、北ドイツの厳しい気候と、そこに暮らす人々の冷たい雰囲気がひしひしと伝わってきます。その先のドイツ社会を考えると余計に、その伏線がこう言う所に落ちていたのかも、とジワジワと恐怖を感じる、しかしとても完成度の高い作品でした。
DAS WEISSE BAND - EINE DEUTSCHE KINDERGESCHICHTE
THE WHITE RIBBON
2009年
ドイツ/オーストリア/フランス/イタリア
監督/脚本:ミヒャエル・ハケネ
出演:クリスティアン・フリーデル、レオニー・ベネシュ、ウルリッヒ・トゥクール、フィオン・ムーテルト、ミヒャエル・クランツ、ブルクハルト・クルスナー、ライナー・ボック 他
白いリボン [DVD] (2011/06/25) クリスチャン・フリーデル、レオニー・ベネシュ 他 商品詳細を見る |